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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)950号 判決 1973年4月06日

控訴人 内海千代松

控訴人(亡田井つや子訴訟承継人) 平野他三治

控訴人(亡田井つや子訴訟承継人) 本郷フミ

控訴人(亡田井つや子訴訟承継人) 田上トモ

控訴人(附帯被控訴人) 田井小夜子

控訴人 大島俊子

右六名訴訟代理人弁護士 田中成吾

被控訴人(附帯控訴人) 京都信用保証協会

右訴訟代理人弁護士 芦田礼一

主文

(一)、本件各控訴をいずれも棄却する。

ただし、

(イ)原判決主文第一項中田井つや子に対し金員の支払いを命じた部分を、「田井つや子は被控訴人(原告)に対し金五四万二、二〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員を支払え。」と更正し、更に訴訟承継のため「控訴人平野他三治、同本郷フミおよび同田上トモは被控訴人に対し各金一八万〇、七三三円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の各金員をそれぞれ支払え。」と変更された。

(ロ)原判決主文第一項中控訴人(被告)大島俊子に対し金員の支払いを命じた部分は、請求の趣旨の減縮により「控訴人大島俊子は被控訴人に対し金一〇八万四、四〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員を支払え。」と変更された。

(二)、付帯控訴につき、

控訴人田井小夜子は被控訴人に対し金二七万一、一〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員を支払え。

(三)、控訴費用および附帯控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。

(四)、この判決の主文第(二)項は仮に執行することができる。

事実

控訴人ら(附帯被控訴人田井小夜子を含む。)代理人は、控訴につき「原判決中、控訴人内海千代松、同田井小夜子および同大島俊子に関する部分を取消し、控訴人田井つや子訴訟承継人らの敗訴部分を取消す。被控訴人の各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審分とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人)代理人は、控訴につき「本件各控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき「附帯被控訴人田井小夜子は附帯控訴人に対し金二七万一、一〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員を支払え。附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行宣言を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に訂正しかつ付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

右事実摘示中、原判決の最初から三枚目裏末行に「二分の一宛」とあるのを「田井つや子は三分の一、田井小夜子は三分の二」と訂正し、同五枚目裏五行目の「支払」と「れる」の間に「わ」を加入し、同七枚目裏七行目に「同第八一号証」とある部分を削除し、同四枚目表一〇行目に「本件」とあるのを「青葉中学校々舎増築(以下本件と言う)」と訂正し、同一〇枚目裏六行目に「決済」とあるのを「決裁」と訂正し、同一二枚目裏九行目に「主債務である原告と訴外会社間」とあるのを「原告と主債務者たる訴外会社間」と訂正する。

一、控訴人ら(附帯被控訴人田井小夜子を含む。)(以下単に控訴人らという。)代理人は次のとおり述べた。

(一)訴外会社が被控訴人(附帯控訴人)(以下単に被控訴人という。)に対し青葉中学校々舎増築工事(以下本件工事という)代金中二〇〇万円の受領代理権を授与したのは、被控訴人が将来訴外会社に対し取得するかもしれない同額の求償債権を担保するためであり、舞鶴市はその担保目的を知りながら昭和三五年一一月二八日右代理権授与の委任状の写を提出させて被控訴人が右二〇〇万円を事実上受領できるように取計らうことを承認した。右の事実関係は実質的には金二〇〇万円の本件工事代金債権に質権を設定したものと解すべきである。しかるに、被控訴人は、訴外会社の東舞鶴信用金庫(以下単に金庫という。)に対する金二〇〇万円の債務の弁済約定が、昭和三五年一二月末日金七〇万円、昭和三六年二月末日金七〇万円、同年四月末日金六〇万円を各支払うこととし、この支払いを一回でも怠れば分割弁済の利益を失うこととなっていることを知りながら、舞鶴市から訴外会社に支払われた本件工事代金中、昭和三五年一二月二八日支払いの金七二万円の内金一〇万円、昭和三六年二月六日支払いの金一六〇万円の内金五〇万円をそれぞれ受領してこれを訴外会社のため金庫に弁済したが、その余の支払金を受領せず、その後に支払われた金九三万九、〇〇〇円および金一八万円は少しも受領しなかった。その結果右不受領の工事代金は訴外会社によって費消されてしまったのであるから、被控訴人は懈怠によって金二〇〇万円から右受領合計金六〇万円を差引いた残金一四〇万円の債権質権を喪失したのであり、従って、右求償債権の連帯保証人たる控訴人らは金一四〇万円の限度で被控訴人に対する保証債務を免れたというべきであるから、被控訴人の本訴各請求は理由がない。

被控訴人は訴外会社は資金難のため被控訴人が本件工事代金を前記受領額を超えて受領すれば本件工事続行不能に陥り金庫へも返済できなくなる状態であった旨主張するけれども、右金九三万九、〇〇〇円は本件工事がほぼ完成した昭和三六年三月一一日に、右金一八万円は本件工事完成時に支払われたものであるから、右主張は明らかに不当である。

(二)、訴外会社および被控訴人は、当初からその意思がなかったのに、控訴人内海千代松に対し、被控訴人が本件工事代金中二〇〇万円を代理受領するとともにこれを訴外会社の金庫に対する借受金の返済に充てるから、被控訴人の訴外会社に対する求償権は発生するおそれがない旨説明し、同控訴人はこれを誤信して本件保証契約を締結したのであるから、右契約は訴外会社および被控訴人の詐欺によるものである。このことは、被控訴人の職員安久治が同控訴人に対し右代理受領に舞鶴市が協力するようあっ旋することを依頼し、同控訴人が同市の当局者に事実上の代理受領を承認させたこと、被控訴人は金二〇〇万円を代理受領することができたのに同控訴人の了解を得ることなく前記のように一部しか受領しなかったこと、右受領代理権授与の委任状には訴外会社と被控訴人の連署がなければ委任を解除できない旨の記載まであるのに被控訴人はいとも安易に受領権を放棄していることの諸事実から明らかである。

同控訴人は右詐欺の事実を知った昭和三六年二月中頃被控訴人に対し本件保証契約を取消す旨通告したから、同控訴人の本件保証債務は消滅に帰し、従って被控訴人の同控訴人に対する本訴請求は理由がない。

(三)、仮に右主張が認められないとしても、同控訴人は本件工事代金中二〇〇万円の代理受領が可能であるかぎり、被控訴人の代理受領および金庫への返済により被控訴人の訴外会社に対する求償権は発生しないと誤信して本件保証契約を締結したのであり、その誤信がなければ締結しなかったのであるから、右契約は要素の錯誤があるものとして無効であり、被控訴人の同控訴人に対する本訴請求は理由がない。

(四)、田井つや子の相続に関する被控訴人の主張事実をすべて認め、被控訴人の控訴人大島俊子に対する請求趣旨の減縮に同意する。

二、被控訴人代理人は次のとおり述べた。

(一)、本件工事代金債権は工事完成までは確定した債権ではないこと、第三債務者にあたる舞鶴市に対する質権設定の通知もなされておらず、同市の質権設定についての承諾もないこと、および、訴外会社がもし右債権に質権を設定するのなら債権者たる金庫を質権者とするのが簡明であって、被控訴人を質権者とする迂遠な方法をとる必要はないこと、を考えれば、控訴人らの質権設定と解すべきである旨の主張の失当であることが明らかである。

(二)、控訴人内海千代松の詐欺に関する主張事実を否認する。仮にその主張のように詐欺による契約であるとしても、被控訴人がすでに主張したように(前記引用の原判決事実摘示)、同控訴人は本件保証契約に基づく訴外会社に対する将来の求償権に関する公正証書によって本件工事代金につき差押および転付命令を得たから、民法第一二五条によって同控訴人は本件保証契約を追認したものとみなされる。従って、同控訴人はその主張する取消権を有せず、詐欺に関する主張は理由がない。

(三)、同控訴人の要素の錯誤に関する主張事実を否認する。仮にその主張のような錯誤があったとしても、本件工事代金代理受領および金庫に対する返済委任は本件保証契約の内容になっていないから、右錯誤は縁由の錯誤にすぎない。また仮に要素の錯誤に該るとしても、同控訴人が訴外会社の本件工事続行能力を考慮することなく求償権が発生しないと信じたのは軽率であって重大な過失があったというべきであるから、同控訴人は要素の錯誤による本件保証契約の無効を主張することができない。従って、いずれにせよ同控訴人の要素の錯誤に関する主張は理由がない。

(四)、控訴人田井つや子は昭和四二年五月二五日死亡し、当時同人には配偶者も直系卑属もなかったので、兄である平野他三治、姉である本郷フミ、同じく田上トモの三名が田井つや子に対する本訴請求債務の三分の一づつを相続によって承継したので、控訴人田井つや子に対する本訴請求趣旨を「控訴人平野他三治、同本郷フミ、および同田上トモは被控訴人に対し各金一八万〇、七三三円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の各金員をそれぞれ支払え。」と変更する。(被控訴人は右主請求の金額を田井つや子に対する従前の請求額金五四万四、四〇〇円の三分の一づつであると述べたが、被控訴人が田井つや子は田井二三郎の金一六二万六、六〇〇円の債務の三分の一を相続承継したと主張していることに徴し右陳述は金五四万二、二〇〇円の三分の一づつというべきところを違算した結果であると解する。)

控訴人田井小夜子は亡田井二三郎の被控訴人に対する金一六二万六、六〇〇円の保証債務の三分の二すなわち金一〇八万四、四〇〇円の債務を相続によって承継したものであるから、原審での同控訴人に対する金八一万三、三〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員の支払いを求める請求の趣旨(原判決認容)を拡張して金一〇八万四、四〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員の支払いを求め、その差額を附帯控訴によって請求する。

控訴人大島俊子に対する従前の請求の趣旨(原判決認容)を減縮して同控訴人に対し金一〇八万四、四〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員の支払いを求める。

三、立証<省略>。

理由

一、先ず被控訴人の控訴人内海千代松に対する本訴請求の当否を考察する。

(1)被控訴人は、信用保証協会法に基づき中小企業者などが銀行その他の金融機関から資金の貸付を受けることにより金融機関に対して負担する債務の保証などを業務とするものであるところ、訴外会社(近畿土建株式会社)の委託に応じて昭和三五年一一月二九日金庫(東舞鶴信用金庫)との間に、訴外会社が金庫から資金二〇〇万円の貸付けを受けることにより負担する債務を保証する旨契約し、控訴人内海千代松は同日被控訴人との間に、被控訴人が将来金庫に代位弁済した場合訴外会社が被控訴人に対して負担する求償金償還債務を訴外会社と連帯して保証する旨契約したこと、(2)訴外会社は、同年同月三〇日金庫から、資金二〇〇万円を借受け、同年一二月末日および昭和三六年二月末日に各金七〇万円、同年四月末日に金六〇万円と利息金をそれぞれ支払って右借受金を完済することとし、利息を日歩二銭五厘の割合とし、右分割支払いを怠ったときは期限の利益を失い、返済遅滞につき旧歩四銭の割合の損害金を支払う旨約定したこと、(3)訴外会社は金庫に対し昭和三五年一二月二八日金一〇万円、昭和三六年二月六日金五〇万円をそれぞれ弁済したが、その余を弁済しなかったので、被控訴人は昭和三七年一〇月二五日金庫の請求に応じて貸付元金残金一四〇万円および約定損害金二二万六、六〇〇円を支払って代位弁済したこと、はいずれも右当事者間に争いがない。

(2)そして、<証拠>を総合すれば、同控訴人は、右連帯保証契約に際し、訴外会社とともに、被控訴人の業務方法書、業務運営規程などの諸規定を遵守することを承認したものであるところ、右方法書および規程には被控訴人が代位弁済した場合には弁済金額に対し弁済日の翌日から日歩四銭の割合の損害金を請求する旨規定されていたことが認められ、これに反する証拠はない。

(3)そうすると、同控訴人は、訴外会社とともに、特段の理由のないかぎり、被控訴人に対し金一六二万六、六〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日以降完済するまで日歩四銭の割合の金員を支払うべき債務を負担しているといわなければならない。

(一)、同控訴人は次のように抗争する。

訴外会社は、昭和三五年一一月二八日被控訴人に保証を委託した際、被控訴人に対し、訴外会社の舞鶴市に対する青葉中学校々舎増築工事(すなわち本件工事)請負代金中二〇〇万円の受領代理権を授与し、本件工事出来高払金のうち第一、二回分から各金七〇万円、第三回分から金六〇万円を各代理受領するとともに、これを金庫に支払って訴外会社の金庫に対する借受金を返済するよう委任した。そこで、右連帯保証契約締結の際同控訴人と被控訴人との間に、被控訴人は本件工事代金を代理受領するとともにこれを金庫に支払って訴外会社の借受金を返済することとし、同控訴人は、訴外会社の本件工事請負契約不履行などによって本件工事代金が支払われず、そのため被控訴人が金二〇〇万円を代理受領することができない場合にかぎって保証債務を負担する旨特約された。

そして、舞鶴市は、右受領代理権を認めて直接被控訴人に本件工事代金を支払うことは承認しなかったが、本件工事出来高払金の支払日を訴外会社および被控訴人に通知して両者立会いのうえで支払うこととし、その際被控訴人が本件工事代金を受取ることができるように取計らうことを承認し、訴外会社に対し出来高払金として、昭和三五年一二月二八日金七二万円、昭和三六年二月六日金一六〇万円、同年三月一一日金九三万九、〇〇〇円、同年四月一一日金一八万円をそれぞれ支払った。

被控訴人は、右支払いの都度舞鶴市から通知を受けて支払いに立会い、その際訴外会社との約定の金額を受取ることができたのに、同控訴人の了解を得ることなく、右七二万円のうちから金一〇万円、一六〇万円のうちから金五〇万円をそれぞれ受取ってこれを金庫に支払い、訴外会社の借受金の一部を返済しただけで、その余の支払金はすべて訴外会社に直接受領させ、その結果金庫に代位弁済しなければならなくなった。

右のように、被控訴人は本件工事出来高払金のうちから容易に金二〇〇万円を受取ることができ、同金額を代理受領するのと同様の実効を収めることができたのに、これを怠ったのであるから、同控訴人は特約により保証債務を負担せず、被控訴人の同控訴人に対する本訴請求は理由がない。

右抗弁事実のうち、受領代理権授与、弁済の委任および舞鶴市の取計らい承認の各点は右当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、同控訴人は、すでに本件連帯保証契約を締結した後、被控訴人の担当職員安久治に対し、自分は訴外会社とは保証人になるような特別の関係はないのであるが、単に青葉中学校の学区に居住する市会議員として保証人になったにすぎないものであるから、なるべく保証責任を追及されるようなことにならないよう協力してほしい旨要望し、安久治は、被控訴人は本件工事代金中二〇〇万円の受領代理権を得ており、その受領金で訴外会社の借受金が返済される予定であるから、保証人に迷惑のかかることはないであろう旨説明するとともに、舞鶴市が右代理受領を承認するよう尽力してほしい旨述べたこと、当時被控訴人の担当職員らとしては、右代理受領および金庫への返済により代位弁済の必要は生じないであろうと考えていたが、事情のいかんを問わず可能なかぎり受領代理権を厳重に行使するほどの考えはなかったこと、同控訴人は、舞鶴市の収入役、営繕課長および公室長に対し右代理受領を承認するよう要望し、前記のような取計らいをする旨の説明を受け、これによって被控訴人が代位弁済し同控訴人が保証責任を追及される事態が生じないことを強く期待していたこと、をそれぞれ認めることができるけれども、進んで、本件連帯保証契約の特約として、被控訴人が代理権に基いて必ず本件工事代金から二〇〇万円を受取るとともに訴外会社の借受金を返済し、同控訴人は右の受取りが不可能な場合にかぎって保証債務を負担する旨確約されたことを肯認し得る証拠はないから、その余の点を考察するまでもなく右抗弁は理由がなく、これを採用することができない。

(二)、同控訴人は、前記受領代理権の授与は、訴外会社が、将来被控訴人が訴外会社に対して取得するかもしれない求償権を担保するため、本件工事代金中二〇〇万円の債権につき質権を設定したものと解すべきところ、前記のように被控訴人は受取ることができた工事代金を受取らなかったのであるから、被控訴人は懈怠により一四〇万円の債権質権を喪失したのであり、同控訴人はその限度で本件保証債務を免れた旨抗争する。

しかしながら、被控訴人が代位弁済して訴外会社に対し求償権を取得したのは昭和三七年一〇月二五日であることは冒頭判示のように右当事者間に争いがないところ、同控訴人の主張によれば本件工事代金の最後の支払日はそれより以前の昭和三六年四月一一日であるから、仮に同控訴人主張のように質権設定契約であると解するときは、被控訴人が本件工事代金を受取るべき時すなわち質権実行により弁済を受けるべき時には被控訴人の求償権すなわち被担保債権は少しも現実に発生していないことになる。また、訴外会社は被控訴人に対し受領代理権を授与するとともにその受領金をもって金庫に対する借受金を返済するよう委任したことは前判示のように右当事者間に争いがなく、この代理権授与と返済委任は不可分の関係にあると解すべきであるから、仮に質権設定契約であると解するときは、被控訴人が本件工事代金を受取る都度受取金と同額の訴外会社の借受金債務は弁済されて消滅し、従って、被控訴人は終始代位弁済する必要がなく、被控訴人の求償権すなわち被担保債権も現実に発生する余地がないことにもなる。このような附従性を欠く質権設定契約が有効に成立し得ないことはいうまでもないから、同控訴人の質権設定契約であると解すべきであるとの主張は明らかに失当であり、右抗弁はその余の点を考察するまでもなく、採用に値いしない。

右受領代理権授与と弁済委任は被控訴人の代位弁済すなわち求償権の発生自体を回避する目的でなされたものと解すべきであるから、担保に似た実効を考えるとすればむしろ直接には金庫の訴外会社に対する貸付金債権の担保たる実効を有するものと解すべきである。

(三)、同控訴人は、本件連帯保証契約は訴外会社および被控訴人の詐欺によるものであるから、これを取消した旨抗争し、また同控訴人は舞鶴市、訴外会社および被控訴人の策謀によって保証責任を追及される破目に陥らされた旨主張する。

そして、原審での控訴人内海千代松本人第一回尋問の結果によれば同控訴人は本件連帯保証契約締結の頃訴外会社の代表取締役田淵頼道から本件工事代金が引当てになっておるから保証人に迷惑はかからない旨の説明を聞いたことが認められ、同控訴人は、被控訴人の職員安久治からも同趣旨の説明を受け、本件工事代金の代理受領により保証責任を追及される事態の生じないことを強く期待していたことは前認定のとおりである。また、<証拠>を総合すれば、昭和三五、六年頃京都府舞鶴事務局長が被控訴人舞鶴支所長を、舞鶴市助役が被控訴人舞鶴副支所長を、それぞれ兼務しており、他にも舞鶴市吏員で被控訴人の役員を兼務していた者があったこと、訴外会社は昭和三五年一一月七日舞鶴市との間に本件工事請負契約を締結し、代金五六四万二、〇〇〇円、着工同年同月一〇日、竣工昭和三六年三月三〇日と約定したこと、舞鶴市から訴外会社に対し本件工事出来高払金として昭和三五年一二月二八日に金七二万円、昭和三六年二月六日に金一六〇万円がそれぞれ支払われ、被控訴人は、舞鶴市から通知を受けて右各支払いに職員を立会わせ、右各支払金中七〇万円を訴外会社諒解のうえで舞鶴市から交付を受ける予定であったが、訴外会社の代表取締役田淵頼道が資金難のため右予定金を減額してほしい旨要望したので右立会った職員は右七二万円中金一〇万円、一六〇万円中金五〇万円だけを受取ったこと、舞鶴市から昭和三六年三月一一日訴外会社に対し右出来高払金として九三万九、〇〇〇円が支払われたが、その際右代表取締役および訴外会社の監査役であった大島嘉六から被控訴人に対し被控訴人が市から交付を受けることに予定されていた金二〇〇万円の残金一四〇万円は本件工事残代金および京都府警察派出所の工事代金から充分交付できるから今回の出来高払金は全額訴外会社に受領させてほしい旨の申入れがあったので、被控訴人はこれを信頼して申入れを承諾したこと、しかるにその頃訴外会社は、すでに経営難に陥っており、本件工事の材料代金や労務賃などの支払いに困窮し、材料購入先や労務者の信用を失墜したため本件工事を続行できない状態であったこと、舞鶴市は、予算の関係上訴外会社が昭和三六年三月末日までに本件工事を当初の契約代金で完成させたことにする必要があったので、事態の収拾に苦慮した結果、表面上は右のとおりに完成した形式を整えることとし、実際は同年同月一〇日頃訴外会社との請負契約を解除し(手続きが遅れて解除通知書は同年四月二五日付で発せられた。)、舞鶴市直営工事の名目で訴外会社の従前の購入先から材料を継続供給させるとともに、訴外会社が使用していた労務者を継続稼働させ、また本件工事の一部を大進工業株式会社に施行させて昭和三六年五月一七日頃本件工事を完成させたこと、舞鶴市はその間同年四月一一日訴外会社に対し本件工事出来高払金として金一八万円を支払ったが、右のような混乱状況のため被控訴人は事実上右支払いに立会って支払金を受取ることができなかったこと、舞鶴市は、本件工事請負契約代金額から訴外会社に出来高払いした合計金三四三万九、〇〇〇円を差引いた残額二二〇万三、〇〇〇円から、訴外会社に出来高払残金として支払うべき金二〇万三、二〇五円を保管し、直営としての工事施行に要した費用金一七六万四、〇〇〇余円を右大進工業を通じて材料納入先や労務者などに支給させ、残額金二三五、〇〇〇余円を右大進工業に支払って本件工事の収支計算を完了させたこと、をそれぞれ認めることができ、原審証人吉岡利雄の証言中右認定に副わない部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、訴外会社の経営状態について被控訴人または舞鶴市の調査や監視が不充分であったことが認められ、本件工事出来高払金が被控訴人に交付されるべき点についても被控訴人および舞鶴市が充分配慮しなかった節が窺われる。しかしながら、被控訴人が、当初から本件工事代金中二〇〇万円を受取る意思がないのに、訴外会社と相通じて、右二〇〇万円を受取ることにより保証責任を追及されるおそれがない旨同控訴人を欺罔し、または訴外会社、被控訴人および舞鶴市が策謀して同控訴人に保証責任を負担させた旨の同控訴人の主張事実については、原審での控訴人内海千代松本人第二回尋問の結果中自分の保証は右三者のインチキにひっかかったものである旨の供述は信用し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はないから、同控訴人の右抗弁は結局理由がなくこれを採用することができない。

(四)、同控訴人は本件連帯保証契約は要素の錯誤により無効である旨抗争するけれども、本件工事代金を被控訴人が代理受領しまたは受取ることが本件連帯保証契約の内容になっていなかったことは、すでに(一)の抗弁について認定したとおりであるから、仮に同控訴人にその主張のような錯誤があったとしても、それはいわゆる縁由の錯誤にすぎず、要素の錯誤であるということはできないから、右抗弁は理由がなく採用のかぎりではない。

(五)、同控訴人は、被控訴人は、昭和三六年五月二五日訴外会社から金一万円を受領し、これを訴外会社の金庫に対する本件債務の弁済に充てたから、被控訴人の代位弁済金額中一万円は過払いであり、従って本訴請求中金一万円とこれに対する損害金の部分は理由がない旨抗争し、これに対し被控訴人は右受領および弁済の事実は認めるが、右弁済は訴外会社の借受金についての約定利息金に充当されたものであるから、代位弁済金額に影響はなく、右抗弁は失当である旨主張するところ、右当事者間で成立に争いのない甲第六号証および弁論の全趣旨によれば、右金一万円は昭和三六年五月二五日金庫の訴外会社に対する貸付金についての同日までの約定利息金の弁済に充当されたことが認められ、これに反する証拠はないから、同控訴人の右抗弁は理由がなく、これを採用することができない。

以上のとおり、同控訴人の各抗弁はいずれも採用することができないから、同控訴人は被控訴人に対し冒頭判示の保証債務金および損害金を支払うべき義務を負っているといわなければならず、原判決中同控訴人に関する部分は結局相当である。

二、次に被控訴人の控訴人田井つや子の訴訟承継人らに対する本訴請求の当否を考察する。

前記一の(1)記載のとおり、被控訴人が金庫と保証契約を締結し、田井二三郎が控訴人内海千代松同様連帯保証契約を締結したことは右当事者間に争いがなく、<証拠>によれば前記一の(2)および(3)記載の事実が認められ、これに反する証拠はない。また前記一の(4)記載の証拠により同項記載と同様の損害金約定の事実を認めることができる。

そうすると、特段の理由のないかぎり、田井二三郎は被控訴人に対し金一六二万六、六〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の金員を支払うべき債務を負っていたこととなるところ、同人が昭和四〇年二月一三日死亡し、同人の妻であった田井つや子が右債務の三分の一を相続によって承継したことは、右承継人らの明らかに争わないところであるから同人らはこれを自白したものとみなす。また、田井つや子が昭和四二年五月二五日死亡し、同人には当時配偶者も直系卑属もなかったので、同人の右債務を兄である控訴人平野他三治ならびに姉である控訴人本郷フミおよび同田上トモが三分の一づつ相続によって承継したことは右当事者間に争いがない。

右控訴人らは前記一の(二)記載と同様質権が設定された旨抗争するけれども、その抗弁の採用できないことは同(二)記載のとおりである。

右控訴人らはまた、被控訴人は訴外会社との間に本件工事出来高払金中第一、二回の支払金から各金七〇万円、第三回支払金から金六〇万円を各代理受領する旨契約していたところ、その後訴外会社の申入れに応じて右受領の契約を変更して受領を延期したものであり、これは訴外会社と被控訴人間の保証委託契約の変更であり、その結果同契約は別個の契約になったから、右控訴人らの本件保証契約に基づく債務は消滅した旨抗争するけれども、右代理受領の合意が右保証委託契約の内容になっていたことを認めるに足る証拠はないばかりでなく、仮に内容になっていたとしてもその変更によって保証委託契約が同一性を失って別個の契約になるものとは到底解せられないから、右抗弁は理由がなく採用に値いしない。

そうすると、原判決中田井つや子に対し金五四万二、四〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩金四銭の割合の金員の支払いを命じた部分は、金一六二万六、六〇〇円の三分の一と認定した原判決の理由に照らせば、金五四万二、二〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員の支払いを命ずべきところを違算したものであることが明らかであるから、これを更正すべきであり、更正された原判決中田井つや子の関係部分は相当であり、当審における訴訟承継の結果「控訴人平野他三治、同本郷フミおよび同田上トモは被控訴人に対し各金一八万〇、七三三円およびこれに対する右同期間同割合の金員を支払え。」と変更されたこととなる。

三、次に被控訴人の控訴人田井小夜子に対する本訴請求の当否を考察する。

右当事者間の田井二三郎の債務発生に関する事実の判断は右二記載と同様である。

そうすると特段の理由のないかぎり田井二三郎は被控訴人に対し金一六二万六、六〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の金員を支払うべき債務を負っていたこととなるところ、同人が昭和四〇年二月一三日死亡し、同人の子である同控訴人が右債務の三分の二を相続によって承継したことは、同控訴人の明らかに争わないところであるから、同控訴人はこれを自白したものとみなす。

そして同控訴人の抗弁およびこれに対する判断も右二記載と同様である。

そうすると、同控訴人は被控訴人に対し金一〇八万四、四〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の金員を支払うべき債務を負っていることとなるから、原判決中同控訴人に対し金八一万三、三〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員の支払いを命じた部分に対する同控訴人の本件控訴は理由がなく、被控訴人の同控訴人に対し右の差額金二七万一、一〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員の支払いを求める本件附帯控訴は理由があるからこれを認容すべきである。

四、次に被控訴人の控訴人大島俊子に対する本訴請求の当否を考察する。

前記一の(1)記載のとおり、被控訴人が金庫と保証契約を締結し、大島嘉六が控訴人内海千代松同様連帯保証契約を締結したことおよび同(2)記載の事実は右当事者間に争いがなく、<証拠>によれば前記一の(3)の事実が認められ、これに反する証拠はなく、また前記一の(4)記載と同様の損害金約定の事実を認めることができる。そうすると大島嘉六は被控訴人に対し金一六二万六、六〇〇円およびこれに対する昭和三七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の金員を支払うべき債務を負ったものであるところ、同人が昭和四〇年一二月三〇日死亡し、妻である同控訴人が右債務全部を相続によって承継したことは同控訴人の明らかに争わないところであるから、同控訴人はこれを自白したものとみなす。

同控訴人は「控訴人内海千代松は、訴外会社との間に、訴外会社が金庫に対し借受金返済の遅滞などによって期限の利益を失ったときは予め求償を行うため訴外会社に対し金二〇〇万円の提供を請求することができる旨および執行受諾文言を記載した公正証書を作成し、その正本に基づき債権額一四〇万円をもって本件工事残代金二〇万三、〇〇〇円の債権につき差押および転付命令を得たから、民事訴訟法第六〇一条により訴外会社の求償債務は消滅し、本件保証契約の責任は控訴人内海だけに残存し、同控訴人は本件保証債務を免れた。」旨抗争するけれども、控訴人内海千代松が本件工事残代金債権につき転付命令を得たことによって訴外会社の控訴人内海千代松に対する求償債務は消滅するわけであるが、そのことから直ちに同控訴人の本件保証債務が消滅する理由はない。訴外会社の被控訴人に対する求償債務が存在するかぎり同控訴人は本件保証債務を免れ得ないのであり、控訴人内海千代松が右転付命令を得ても、そのことから直ちに訴外会社の被控訴人に対する求償債務が消滅するわけではない。従って右抗弁は主張自体失当であって採用に値いしない。

同控訴人はまた前記一の(二)記載と同様質権が設定された旨抗争するけれども、その抗弁の採用できないことは同(二)記載のとおりである。

そうすると、原判決中同控訴人に対し金一六二万六、六〇〇円およびこれに対する昭和四七年一〇月二六日から完済するまで日歩四銭の割合の金員の支払いを命じた部分は相当であるが、被控訴人の請求の趣旨減縮により右部分は「同控訴人は被控訴人に対し金一〇八万四、四〇〇円およびこれに対する右同期間同割合の金員を支払え。」と変更されたものである。

五、以上説示のとおりであるから、本件各控訴をいずれも棄却し、原判決を更正し、訴訟承継および請求の趣旨減縮により原判決が変更されたことを表示し、本件附帯控訴を認容し、控訴および附帯控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条第九三条第一項但書を、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜多勝 裁判官 東民夫 辰巳和男)

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